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ふと思いついては消えていく戯れ言の中にも大事なことや本気なことはあるよな、と思い極力書き留めよう、という、日々いろんなことに対する思いを綴っています。
2024.05.20 Mon
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2010.02.20 Sat
小川 糸
ポプラ社
発売日:2008-01-10

正直言ってひどい。
映画化されるほどの高評価の理由がどうもわからない。

身近なところでも「良かった」という評価を聞いたので
読んでみたのだが
男女の価値観の違いなのだろうか?
これが児童文学であれば、少なくとも途中までは快く読めるし
面白いかもしれないが
『文学』『小説』というジャンルと考えれば
構成や文章など全てが稚拙と言わざるを得ない。

冒頭はわくわくして読み始めた。
だが、大家に挨拶もせず、声が出ないこともさして気にしない
という”ずれ”ている主人公に共感はあまり抱けない。

比喩の仕方は面白いと思った。
人の心は泥水というのは確かに同意。
心に汚い部分は誰しも持っていて、濁らない様
静かにしているという表現には頷く。

自分で作った料理を自分で食べることの
つまらなさなども理解できる。

これ以降は核心に触れるネタバレ含む。



インド人の彼の立ち去り方が、泥棒とも言える
あまりにひどいものなのだが
その『謎』は最後まで明かされない。
単純に追い込まれてあんなに避けていた家に戻るという理由付けにしては
どうにも安直なのは、書き手が女であることの被害妄想じみた描き方か。

いくら憎んでいる母親としても、こっそりへそくりを奪おうというのも
これまた泥棒だし

声が出ない割に誰一人慌てず傷つけるような言動もなく
順調に食堂の営業が軌道にのるのも稚拙な話運び。
リアリティがない。
”そんなにうまくいくはずがなかった”と言いつつ訪れた苦境が
陰毛事件で、それにしたって主人公がサンドイッチを捨てる辛さだけで
食堂の営業に問題はない。
こんなもの、苦境のうちには入らない。

彼女の料理を食べると願いが叶うだなんていう伝説じみた噂で
あっさりといろんな問題が表面上だけ片付いていく。
ファンタジーと考えても嘘臭くて浅い。
最終的に母親が彼女の料理を食べて和解するのだろう
という予想が裏切られることのない陳腐な構成。

母親が病気になることは苦境かもしれないが
このあたりの描き方にも徹底してリアリティがない。

一番問題なのはやはり、エルメス。
食肉に変えられそうだったのを引き取って
可愛がって育てていた割に突然食べるというのが理解出来ない。
それこそが愛だ、などど偽善も甚だしい。
百歩譲って食うのは良いとしても
「エルメスは自分の運命を悟っていた」
「苦しまなかった」
という欺瞞には吐き気がする。
このあたりで決定的に読む気力を失った。
それでも勿論最後まで読んだが。

自分の知人に料理人がいるが、彼は
「殺生が自分の生業だ」
と常々言っているし、包丁と食材を神のようにあがめ
とても丁寧に扱っている。

『命の大切さ』を教える為に敢えて目の前で屠ることに
私は疑問を禁じえないし、それはただの人間のエゴだと思う。

我々は日々命を犠牲にして生きている。
それなのに敢えて犠牲を増やすことは欺瞞だ。
料理人の葛藤や真摯な姿勢を描くならば
エルメスだけでなく全ての食材に対して感謝をするべき。
表面だけの料理人の描写。
本物の料理人さんたちに失礼。

母親が死んだからと、あれだけ決意して開いた食堂を
ずっとしめっぱなしにしているところも
プロ意識に欠けるだろう。


料理を作ることの楽しさ、人に食べて喜んでもらう嬉しさ
それは自己満足ではないはず。

あまりに稚拙な小説なので
少なくとも文学が好きな人、本を多量に読み込んでいる人には
お薦め出来ないし
とても感動も出来ない。
自分は正直このような内容ではとても泣けない。
作り事、絵空事、自分に都合の良いだけの自己満足小説。

昨今の、素朴だったり人が死ねば感動という残念な流行から言えば
流行に即しているとは思う。
また、口の利けない主人公の一人語りで進む物語や
豚の解体シーンを、映画でどう描くのかには興味がある。

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