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ふと思いついては消えていく戯れ言の中にも大事なことや本気なことはあるよな、と思い極力書き留めよう、という、日々いろんなことに対する思いを綴っています。
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2005.09.21 Wed
奇跡の人
奇跡の人
真保 裕一

毎度この人の本を読むたび驚かされるのは、この手法だ。
今回は、プロローグと、ノートによる経過、エピローグという方式で書かれているのだが、母のノートの記述のみで終わるような退屈な話ではもちろんない。ノートの記述と、現状の克己の状況が微妙にリンクしているところがまた凄い。
ノートに引き込まれ、その後の文ではっと克巳の今の状態を思い出して引き戻されるような繰り返しだ。
プロローグとエピローグの組み合わせは、結構驚いた。正直、そうくるかーと思った。
個人的な好みで言えば、他の筆者の本の読後感に比べると少し爽快感が薄れて残念だった。そうあってほしくなかった。
でも、これが最上の終わりだったようにも思う。悲壮でいて、確かに爽やかな終わり方でもあるのだ。

ネタばれ→
ストリー自体は、ふと『ギフト』を思い出した。
SMAPの木村拓哉氏主演で、豪華なゲスト陣でも話題になった連続ドラマの小説である。
あれも、主人公が記憶を無くし、人に“ギフト”を届けていく過程の中で
過去の自分を思い出していく。
今の自分とは似ても似つかない、落ちた人生を送っていた自分に出会う。
その頃の自分を知っている人に出会い、当時買った恨みを今の自分に向けられたりもする。
あれに似ているなと思った。克己も素行不良の過去を持っていて、周りがそれを隠そうとするけれど知りたくて探そうとしてしまう。今の“奇跡の人”と呼ばれる自分からは似ても似つかない自分。
そして、今の自分から見ればぎょっとするような友達たち。
やはり自分が記憶を無くしていたら、探したいと思うものだろうか。
スキップという小説を読んだときも思ったが、あれは主人公が未来に飛ぶ。
奇跡の人もギフトも、言ってみれば過去に飛ぶのと同じだ。
未来の自分と過去の自分。今の自分ではない自分、そして今の自分が知らない自分に会ったとき、
私は自分を認められるだろうか。自分に恥じない自分でいられるだろうか。
絶対に無理だ、と思う。
だからこそスキップの主人公には敬意を抱くし、過去の自分を知っても新しく生きていくギフトの主人公も好きだった。
けれど奇跡の人の主人公である克巳は、記憶がなくても昔の克己だ。過去の自分に負けて、取り返しのつかないことをしてしまう。
言ってみれば、ホワイトアウトの映画版の織田裕二、むしろ松島奈々子のように。
もうそんなことをしてしまって、普通の生活には戻れない。
だから、このラストでよかったのかもれない。
こうしてまた、克己は自分に打ち勝つのだろう。
そして総子も、過去をやり直すことができるのかもしれない。
でもそれは、切ない未来だ。

私は聡子の現在の旦那が、克己が昔半殺しにした相手なのかな、と思っていた。
だからこそ配子は裏切ったような申し訳ない気分になって、
あれほど克巳を拒絶しているのかと。
が、それは深読みだったようだ。
そしてあれほど克巳が心配し、何もなかったと調べがついたはずの
克己が起こした事故での死者の話が、
聡子の話にすらっと語られてしまうとは思わなかった。
事故の被害者の有無をずっと気にしていて、それがいなかったと思ったら
実は総子の浮気相手を半殺しにしていました。
それで充分今の生まれ変わった克巳には重い業なのに、更に事故で人を殺していたとは。
個人的には、それはなくても良かったような…。
でもそれだとあまり入院措置という設定が生きてこないわけだし。
やはりこれはこれで、良かったのかなと。

ま、好き嫌いの問題ですな。私はもうちょっと、全体的に前向きな終わり方の方が好きというだけの話でした。

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