明智光秀が本能寺の変を起こし
信長を討ち取り、秀吉に討たれることは
史実として知っているので、読み進めることは辛くもあったが
フィクションならではの希望が感じられるラスト。
史実とつき合わせても、「あり得ない」ではなく
「もしかしたら本当にそうだったかもしれない」
と思わせてくれるフィクションぶりが 流石真保さんで
これが事実だったのではと半ば本気で思った。
そこには救いがあった。
歴史は勝者が語るもの。
なればこそ、史実こそが作り話かもしれない。
事実だとされていることも、人が伝えたこと。
人は多くの場合、冷静に公平に見ることが出来ず
自分の立場や利益や感性に任せて伝えることもある。
歴史小説の中には、ただのミーハー心や
作者の妄想に近い希望ばかりが盛り込まれていて
見ていて不快であったり、子孫の方の心情が心配になるものも多々あるが
この小説はそれぞれがそれぞれに魅力的に描かれており
その上で真保裕一個人の感性で立ち入りすぎもせず
『こうだった』と断定するのではなく
『こうだったかもしれない』とする筆者の弁えぶりとセンスの良さ
はたまた読者の想像をかきたてる描き方には脱帽。
これが物足りないと感じる人もいるのだろうが
私はひたすらに、好感を持った。
歴史上の人物は夢物語のヒーローではなく
実在した人物ということは、意外と見落とし勝ちな事実で
作家や歴史家先生でも平気で土足で踏みにじるようなまねをすることもある。
そういった点が全く無かった、と言って良いと思う。
個人的に興味があったかごめかごめの歌の『謎』など
さらりといろいろな説が取り込まれており
この小説に感動するだけでなく
史実を学ぶことへの興味ももたせてくれる
素晴らしい歴史小説と言えるだろう。