忍者ブログ
Admin / Write
ふと思いついては消えていく戯れ言の中にも大事なことや本気なことはあるよな、と思い極力書き留めよう、という、日々いろんなことに対する思いを綴っています。
2024.11.22 Fri
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2005.12.24 Sat
かねてから予約をとっていた、14時からの公演を見に行きました。
二階席三列目。ぶっちゃけ、絶対サンシャイン劇場の二階席は
一列目見にくいなと私は思っているので、
一列目のおばさんが前かがみになっていたのがちょっぴり気になるくらいで
割と集中して見られたので良い席でした。

で、あの、ねたばれなんですけど。
じゃないとなんにも書けない。
しかも、原作も読んでる人向けなんですけど。
お芝居は見たけど、原作との違いとかはまだ読んでないから知りたくない!って人的にもここから目茶目茶ねたばれになります。



私は原作読んでから、観劇に臨んだんですね。
興味があったから。
でも映画にはいまいち乗り切れないまま見ないで終わって、
今日を迎えたわけなんだけど。
大抵そんなことしちゃうと、結構原作と比べちゃうものなので、
私としてはかなりチャレンジだったんだけど。
でも、問題無し。むしろ、原作を先に読んでいて良かった!!
クロノス最高!!成井豊天才!!
正直、もしこれを見てから原作を読んでいたら、原作にがっかりしていたと思う。

と言うのも、原作はオムニバス形式になっていて、その第一話が
このクロノスというお芝居の元になっている。
しかし、私はこの第一話が一番、好きじゃなかった。
だから、クロノスが第一話だと聞いて、ちょっとがっかりしていたのだ。
な~んだ、あれかあ。まあ、でも見るけど。
あとはどれだけ脚本で変えて面白くしてくれてるかだよなー、
ってくらいで、
メインの目的は菅野さんを見ること、だったんだけど。

なんと言うか、吹原さんの愛情って、純粋だけれど、真っ直ぐ過ぎて
ストーカーと紙一重なぎりぎりの愛情じゃないですか?女の子から見て。
それがちょっと気になったんだよね、原作を読んでいる時に。
だけど、読んでいるうちにどんどん引き込まれて、
吹原さんを何時の間にか応援していて、
そうすると今度は、蕗さんがうざいんだ。
いや、信じてよ!って言う。
一番許せないのは、やっと伝わった、信じてくれた、と思った途端、
「ひとりで逃げられない」
とくるじゃないですか。
いや逃げろよ、こちとらここまで来るのにどんだけ大変やと思とんねん。
もう死んでまえ~。
って思うわけなんですよね。
そして何より、私はハッピーエンドが好きなので。
悲しい終わりでも、なにかどこかに救いがある感じが好きなので、
このラストでは、吹原が最後に飛ばされた未来では、地球があるかどうかも分からない。
それは、蕗さんを助けるという目的は果たされた。救いはあるかもしれない。
でも、そんなのでわけも分からず助けられて、目の前からいなくなられて
残された蕗さんはどうなる?
自分のために、吹原は死んでしまったかもしれないのだ。
もし蕗さんが普通の人間なら、吹原の会社名は分かっているのだから、
会社へ行って話を聞こうとするだろう。家族にも会いたいと思うだろう。
もし事実が分かったとしたら、自分が一度目で信じていたら、
こんなことにはならなかったのにと思ったらもう辛くて辛くて、
でも吹原がそこまでして助けてくれた命、
途中で断つわけにもいかなくて、生き地獄の中でせめて
吹原への祈りを捧げて寿命を全うしていくしかない。

これが、この話の私なりに納得のいかない理由。

でも、成井さんのクロノスは違う。


原作を読んだ人なら、一体どこからお芝居を始めるのかな、つていうのは
興味のあるところだったと思う。
博物館から始まる、館長による物語。
これから始めてくれるのかな?と期待していたんだけど、
本当にここから始まった上、文章ではああやって、フォントを変えて
表現できる時代や場所の違いを、よくコミカルにかつ感動的に表現できていると思う。

曲りなりにもお芝居を経験している者として、
キャラメルがすごいと思うのは、
ライティングと芝居と、それによるスピード感。
舞台装置をいちいち変えたりしないで、暗転も乱用せずに、
俳優の演技力とスポットライトをうまく使うことで舞台転換をこなす。
だから見ている方は長い暗転も無く、俳優がずっと舞台にたっているので
緊張感も集中力も欠けることなく見ていることができる。
もちろん、いちいち背景や舞台の大道具・小道具を変えるのも、
幕があがった瞬間「おお」と思うし好きなのだけれど、
そういうお芝居しか見てこなかった自分にとって、キャラメルの舞台を
初めて見たときは物凄い衝撃だったのだ。
今回のお芝居ももちろん、手法は同じ。
館長の部屋という設定の机とソファ。
ただ、ちょっと今回大掛かりなのがクロノス・ジョウンター。
格子状の扉に仕切られていて、必要に応じてこれが開閉するようになっているのだ。

会場中に大音量で鳴り響く音楽。
非常灯まで消された暗闇の中、目も耳も封じ込まれた状態で、
ぱっとついたステージ上のライトの中に、
倒れている菅野さんの姿が見えたとき、
これから始まる壮大な物語の予感に興奮した。

畑中さんの日記を読んでいて、
菅野さんはずっと走りっぱなしで死んでいます
みたいなことが書いてあったのだけど、
それはそうだろうなと大納得でした。
身が軽いからって、しょっぱなのダンスから側転したりかつがれたり。
ついでだから言及しますが、クロノスで過去に飛ばされるとき、
物語の設定上クロノスの中に入るわけだけど、そして地下通路を通って
別の場所に出現、っていう方法を取る劇団もあるだろうけど、
キャラメルの場合は
クロノスに入って扉を閉めて、いざ過去へ、ってときには菅野さんが
扉を開けて身をかがめてステージに走り出て、倒れこむ。
こういう演出も、避ける劇団はいると思うのね。
「いや、今出てきたじやん」って野暮なつつこみが入るから。
けどそういう部分を敢えて適度に適当にやってしまうところが凄い。
そして、過去に何度も飛ぶ度に菅野さんはこの入って走り出て倒れる、
を繰り返す。
これだけで相当体にはきついはず。
ましてや、それで体が傷んでいて、怪我をしている演技をしたり、
未来に引き戻される演技をしたら、どんどん体に負担はかかる。
人間の肉体って精神にも左右されるものだから、
しんどそうに演技をしていたら本当にしんどくもなってくるし。
ステージが進むごとに、菅野さんの背広の背中がぐっしょり濡れて
色が変わってきているのが印象的でした。
そんな菅野さんの一生懸命さが、吹原さんの一生懸命さと重なって、
すごく純粋で必死な、真摯な気持ちとなって伝わってきてとてもよかった。

原作とはまず、館長が女の人というところが違う。
そして、館長と中林くんに菅野さんが語るという形で
展開される回想シーン。
坂口さんたちが適度にからんで、適度に間をとって
菅野さん本人も回想シーンにいる吹原と、
館長らに語る吹原を同時に演じこなして
見事にテンポ良く語られていく。
そして最大に原作と違い、かつ素晴らしいところは、頼人とさちえの存在。
クロノスの実験が上手くいかずに、藤川さんがあたふたしているところを
吹原さんが助けに入っで怪我をする。
まるでTRUTHのようだ!と内心、思っていた。
で、怪我をした上に病院にまで行ってしまう。
更に、なんだかガラの悪そうな感じで畑中くんが入ってくる。
なのに足を組んで横柄な態度の菅野さん。
なんだなんだ?と思っていたら、なんと!
畑中くんが頼人という名前で、吹原の後輩かつ蕗さんの弟設定なのだ!
これは驚いたー。
そうくるのかー。やられたなあと思った。
この頼人がまた、魅力的な人間設定になっているのだ。
喧嘩慣れしていて、転校続きで、回りに馴染めず先輩にも目をつけられて。
でも、ボクシングが好きで。
そして姉のことも、吹原のことも、ちゃんと好きだっていう男の子。
今はプロボクサーになっているんだ、って言う。

ふたりとも右手を怪我しているのに、再会の感激ですっかり忘れて
思い切り手を握り合って
「あーーーーー!!」って叫ぶシーン、かなり面白かったです。

通勤途中の花屋さんに勤めている美人の彼女、というだけよりも、
頼人に会って、中学生の頃ずっと片思いをしていた
姉の来美子がいると聞いて
花屋さんに行ってしまう、という方が、すごく自然で納得がいく。
来美ちゃんも、昔弟がすごくお世話になった同級生ともなれば、
覚えていて当熱もしかしたら来美ちゃんの方だって
和彦のことが好きだったかもしれない、なんて妄想も膨らむ。






段々と明かされていくクロノス・ジョウンター。
そして、吹原和彦の軌跡。
それに加えて、頼人のことも織り込まれて語られていく。
素直になれない頼人。ボクシングを止めようかと思う頼人。
彼がプロボクサーになれたのは、高校生のときボクシングを諦めなかったから。
それは、吹原が頼人を諦めなかったから。
頼人の人間性を描き出すと同時に、吹原の粘り強さも同時に描かれる。
吹原は諦めない。そういう人。だから、来美ちゃんを救いたいという願いも諦めない。
ともすればしつこいくらいの、もういいじゃないかと周りが言いたくなるような
吹原の何度もの過去へのトラベルも、昔から吹原は、こういう人だったのだと
描かれているので納得がいってしまうのだ。


ここまで丁寧に、しかも頼人という名脇役まで拵えて語られては、
吹原に感情移入しないわけがない。
原作の、異常とも言える吹原の愛情に、素直に没頭できる。


姉を失った弟の気持ち。
そして、来美子にとって家族でも同僚でも、恋人ですらなかった吹原の、
なんとも言えない切ない気持ち。
ここで既に泣きました。


そして、和彦の妹のさちえ。
藤岡宏美ちゃんが、お転婆に可愛く演じてくれる。これがまた、はまり役!
原作では、そんな人は出てこない。
だから、和彦は残される人のことを何も考えていないように見える。
クロノスを使うのを見逃してやった藤川、責任者の野方、
そして和彦自身の家族にかかる心配や迷惑を何も顧みていない。
ただ、自分にとってはついさっきの片思いの相手の事故死が受け止められず、
必死に盲目に、過去へ向かう。何度も。
そんな吹原の人間味をこれまた演出してくれるのが、このさちえなのだ。
彼女は、突然行方不明になって、突然現れた兄の元へ駆けつける。
威勢良く熊本弁で叱り付ける。
ここに、家族思いの元気で明るいさちえ像が作られ、
かつ、さちえが心配する
ちょっと頼りなさそうに見えて、実は頑固な兄和彦像も推察できる。
初めは、行方不明の兄が見つかったことにほっとして溌剌と餞舌に話すさちえ。
それが、頼人と共に兄に呼ばれて、
クロノス・ジョウンターの話を打ち明けられる。
和彦に頼まれて、野方や藤川に会いに行くふたり。
けれど、ふたりはそれぞれ別の思いを抱いている。
頼人は、姉を取り戻すひとつの手段として。
そしてまた、感謝している先輩の頼みとして。
さちえは、兄を諦めさせるためにクロノス・ジョウンターを探す。
もうどこへも行って欲しくないから。
このままでは兄の人生は滅茶苦茶になってしまう。

中学生の頃、頼人に殴られてぼろぼろになる兄を見ているさちえ。
両親ですら知らない兄のそんな一面。
そして今また、頑固な自分の思いを貫こうとして、
また身も心もぼろぼろになっている兄。
時間遡行のために身体が弱っていて、まともに歩くことも出来ないのに
和彦は早く来美子の元へ行きたくて仕方がないのだ。
「待っているから」
この和彦の台詞があるからこそ、
一度行った時点より過去には戻れないという
クロノス・ジョウンターの設定が生きてくる。
和彦の勝手な思い込みではなくて、本当に来美子は、和彦のことを待っているのだ。
現れては消え、数分後に現れて必死に訴えてはまた消えていく和彦のことを。

綾ちゃん演じる津久井のキャラクターもとても良かった。
藤川との結婚、更に離婚!と、キャラメルならではのお笑いも入れた上で、
ひとりの女性として、ひとりの同僚として、誠実に和彦に接する姿がある。
過去は変えられないのだ、と言う彼女。
しかしそれは、和彦がここまで辛い思いを、大きいリスクを背負ってまで
タイムトラベルを繰り返しているのに、
来美子の死という過去を変えられないから。
和彦の思いを知って、信じているからこその考えだ。
ついには彼女も、思い直す。きっと過去は変えられるのだと。
それも、和彦のことを思し信じているからこそ。


彼女がクロノスの場所を知らせるために電話をしてきてくれるのも
良いシーンならば、舞台の端でその間、
仲良さそうに話している頼人とさちえも良い。
兄を殴った不良!そう頼人のことを思う反面、
大切な兄の後輩なのだということも
もちろんさちえは分かっていたはず。
頼人にしてみても、兄思いのさちえは可愛かっただろう。
和彦を好きで、感謝している。
その点では、頼人も妹であるさちえも、同じ種類の人間とも言える。
女は殴らない。どんなに悪ぶっていても、そんな古くて男らしい考えを持つ頼人。
自分のことを考えてくれる先輩和彦。自分を臆せずに殴った、妹のさちえ。
先輩たちでさえ自分を大人数で囲むことしかできなかったのに、
女で年下のさちえが、兄を思うあまりひとりで自分に立ち向かってきた。
流石この兄の妹だ、と思っただろうか。
良い伏線だった。

先輩に囲まれると言えば、坂口さんが
「十八歳?!そうよね、十八歳にしか見えないわよね」
と言っていたのは最高だった。
あの間と面白さは、坂口さんにしか演出できない。
あんな個性溢れる(笑)三年生の中にあっては、
畑中くんはいたいけな正真正銘の
後輩の高校生にしか見えませんでした。(笑)

筒井くん演じる足柄さんが、警備員だったのには笑った。
IDを見せるのに、「風が強くて」とばたばたさせている
菅野さんも面白かったし、
畑中節満開で、吹原の顔を確認しようとする足柄さんを
遮っている頼人は可笑しかった。
なんだか勝手に、良い先輩と後輩の中を妄想した。(笑)
劇の中然り、現実の中然り。

姉を亡くしてからの二年を過ごした頼人。
っいさっき来美子を亡くしたばかりの吹原。
それぞれの辛さ。
気持ちは分かる。でも、残されたくないし、行って欲しくない、さちえ。
彼女だって辛い。登場はしないけれど、和彦の両親だって
和彦にしてみれば数分の出来事でも、数年もの間息子が失踪したのだから、
辛いに違いない。

クロノスを前にして、なんとか兄を止めようとするさちえと、
自分が行くと言い出す頼人と。
どちらの気持ちも、とてもよく分かった。じんとした。

確かに頼人なら、無理矢理でも来美子を店から引きずり出してくれそうだ。
弟という肩書きがあるから、店長や周りの見る目も少しは違うだろう。
もし邪魔されても、殴り飛ばしてでもやり遂げてくれるに違いない。
どうせ素人相手に喧嘩をしても、
数年先の未来まで弾き飛ばされる頼人には、
プロボクサーとしてのライセンスはもう意味の無いものになる。
そうすれば、生きている来美子と和彦も、恋人同士になれるかもしれない。

でも。直接伝えたい。来美子が待っている。
頼人が遺族として堪えた二年。和彦にはないその時間。
だからこそ、焦燥感となって和彦を襲う。
今こうしている間にも、来美子は自分を待っているのだ。
今にもタンクローリーがつっこんでくる、
危険極まりない事故現場となる場所で。

その和彦の思いに、頼人は身を引く。
自分を助けようとした和彦が、今度は姉を助けようとしている。
自分を助けようとしたときだって、
姉を近づきたい思いも多分にあったはずの和彦が。
ある意味で、和彦の久美子への片思いの気持ちを
一番近くで見て知っていたのかもしれない頼人なのだ。

次に声をあげるのは、さちえだ。
行かないで欲しい。一体この七年間、家族がどれだけ心配していたか。どんな気持ちで和彦を探し、待っていたか。
なのにまた行ってしまう。また自分たちを置いて行ってしまう。
そんなのは嫌だ。
なによりそんなことをしていたら、
お兄ちゃんの人生は滅茶苦茶になってしまう。
今だって何年も失踪して、こんなに身体も弱っているのに。
やめて。行かないで。
クロノス・ジョウンターなんて壊してやる!
彼女の叫びに胸を締め付けられた。

そんなさちえを止めたのは、同じように真摯な和彦の叫びだった。
「俺も残された者なんだ」
その言葉に、「お兄ちゃんはなにも分かっていない」と
言っていたさちえも留まる。
和彦の気持ちも、さちえの気持ちも、考えるだけで切ない。

そしていざ出発、というところで、ロックがかかっていて動かない。
「誰か来る。急いで吹原さん!」叫ぶ頼人。
そこへ足柄さんが来てしまう。でも、それは藤川さんを伴ってだ。
津久井さんから電話を貰って、
ロックの解除の仕方が分からないだろう吹原の元へ来てくれたのだ。
わざわざまた、共犯者になりにきてくれた藤川。
そして、別れた夫に電話をして吹原のことを伝えた津久井の勇気。

思えば足柄さんも、可哀想な人だ。
蕗さんのファンで花を買いに訪れていただけで、
しつこいライバルらしき人がわけのわからないことを喚いて
彼女を連れて行こうとし、
挙句の果てに目の前で消えてしまう。
足柄にとっては、お気に入りの花屋の店員が事故で亡くなってしまった。
そして、その事故を予言していた青年がいた。
それも七年という歳月を経て色禎せて、吹原の存在も、蕗来美子のことも、
記憶が薄れていたことだろう。
それが、やっとその、人に話せば自分が頭がおかしいと思われそうな過去が
突然目の前に戻ってきたのだから。

必死でその過去に向かい、そして警備員としての職務として
吹原を抑えようとする足柄。そんな彼を抑えようとする頼人。

きっと和彦が旅立った後で、足柄も話を聞かされたに違いない。
そして、来美子のことを思う気持ちに、
自分には勝ち目が無いと思っただろう。
来美子のファンというライバルよりも、
仲間意識のようなものも抱いたかもしれない。

ところで、三浦さん好きなのですが、
なんか今日はもうどうしても嫌いだった!
それはつまり、役をきちんと演じきれている素晴らしい役者さん、
ということなのですが。
店長として、というより、来美子が好きな男として、
といういじましい気持ちが透けて見えて。
確かに吹原は、おかしなことを言っているかもしれない。
でも、必死なのだ。
それが分かったら、もう少しなにか感じ取ってくれても良いのに。
ついさっきあった時は普通だったのに、怪我をして、体力も弱って、
それでも必死で走っている。
そんな和彦を見て、どうして何も思わないの?
見ていて辛くなった。

博物館のシーンに戻った時、あまりに集中して見ていて、来美子は?
と思っていた自分に気が付いた。
博物館にクロノス・ジョウンターを和彦が探しに来ているということは、
来美子はまだ花屋の中なのだ。そんなことはわかりきっているはずなのに、
一体来美子はどうなったのだと手に汗握って見ている自分がいた。

野方さんがパーソナル・ボグを持って行けと言ったとき、
胸がどきどきした。
持っていけばいいのに。そう思った。
十分ではなくて、事故の起こる時間ぎりぎりまで
来美子を説得することができるのに。
でも、その時間までしか残されていない自分には、
それしか必要ないのだという和彦の苦しい思いも理解ができる。
本当に野方さんが和彦と会っていたら、そしで憎からず思っていたら、
当然完成しているパーソナル・ボグを和彦に
渡してやろうとするに違いない。
ここも納得のいく演出だった。
野方さんに「何故そこまでする、見返りなどないじゃないか」と言われて、
答えていった和彦の台詞には泣かされた。
見返りはあるのだと。自分は思いを伝えたいのだと。
「でも彼女は、幸せな人生を送るでしょう。
他の男の人と結婚して、幸せになるでしょう」
そこに、和彦はいない。それでもいいのだと。

それでも、来美子にやっと危険は伝わった。
しかも来美子は、
よくわからないけどここに和彦が来るのは大変なことなのだと
本能で察している。
さっき和彦が来た時、一緒に持っていたスクラップブックが、
彼と共に消えてなくなった。
そんな事実も彼女を後押しした。
和彦の懸命な気持ちが伝わった。
そしてだからこそ、
「あなたを置いてひとりでは逃げられない」と来美子は言う。
来美子にとっては、目の前の和彦が何年も先の未来から
来ているとは分からない。
よく分からないけれど、自分ひとりで逃げるわけには行かない。
これは人として、自然な感情だ。
原作で私が感じた、ひとりでは何も出来ない女、ではなくて、
クロノスの蕗来美子は和彦のことを思い、理解するひとりの女性だった。
中学の頃から、それが恋であれ、弟に親切にしてくれる人への感謝であれ、
ずっと来美子が育んできた思い。
好意を持ってきたであろう、思い出に残っている同級生が、
必死に自分を救おうとしてくれている。
その気持ちがきちんと響いて、来美子は和彦の言うことを信じた。

そして、未来に弾き飛ばされた。
和彦の言うことを信じていなかった中林が、
すっかり和彦のことを信じていることに、
館長が言うまで気付かないほど、私も集中して見ていた。
緊迫した走りっぱなしの和彦の話を、うまく調整して道案内してくれるのが
館長と中林の役柄だ。
和彦もとい菅野さんは、未来にはじきとばされるときも実際には消えない。
風に飛ばされそうな、辛そうな演技をして、その場に倒れる。
ライトの当らない足元に倒れている菅野さん。
ライトに当っている岡内さんとは、既に時間軸が違う。
だから、岡内さんは菅野さんに気付けない。
菅野さんの手から離れて落ちているスクラップブックを、
ライトの外から、来美子の手が伸びる寸前にすっと
中林が抜き取る演出も心憎い。
キャラメルの舞台は、こうした黒子的な動作を役者が自然にこなしてしまう。

話を聞いて、館長はクロノス・ジョウンターを使っても良いと言う。
それは、原作通りだ。
だが、クロノスの舞台はそれだけに留まらない。
「両親に会いたかった。でも、会えば立ち止まってしまいそうで怖かった」
と話す和彦。彼がけして、自分のことしか考えていなくて、
親の気持ちも考えない人ではないということが分かる。
「さちえにも会いたいけれど、もう八十過ぎのばあさんだ」と。
館長は驚くべきことを告げる。
私は、父からここを引き継いだのだと。父は、
クロノス・ジョウンターが処分されると知って
買い取って、博物館を建てたのだ、と。
藤川か?まさか…と思っているところに、彼女は告げる。
「父の名前は蕗頼人。母はさちえ」と。

それはそうなのだ。姉を助けるために、
自分を犠牲にしている感謝している先輩。
自分の反対を押し切っても、久美子を助けに行った兄。
間近で見ていたふたりが、何十年先になっても
必ず戻ってくる和彦のことを忘れて
手をこまねいて日々を送ることなどありえるはずも無い。
和彦のしようとしていることを知っていたふたりなら、
きっとなんとか和彦のためになることをしようとするに違いないのだ。
最高の演出だった。

さちえももちろんだけれど、頼人の生き方に感動させられた。
中学・高校と喧嘩に明け暮れ、転校続きでろくに友達もできない。
そんな中で、吹原だけが自分を見てくれた。
喧嘩しか能の無い自分が目指したボクシング。
それも、先輩に目をつけられて、殴りつけられて、自暴自棄になって。
もうボクシングを諦めようと思った。
そんな自分に、毎日毎日懲りもせず、
ボクシング部に戻ろうと説得し続けた吹原。
終いには決闘状まで送り付けて来て、
勝負に勝ったらボクシング部に戻れとまで言う吹原。
何度殴っても、倒れないで向かってくる吹原。
『本当は俺のためじゃない癖に。姉ちゃんに近づくためな癖に』
そう思って殴りつけても、何度でも立ち向かってくる。
その吹原の姿に、頼人にも感じるところがあったに違いない。
結果的には、彼のお蔭でボクシングを諦めなかった。
今プロボクサーとしてあるのは、吹原のお蔭だ。
だからこそ、姉と先輩のために、
自分のボクシング人生を捨ててもいいと思った。
自分と姉のために必死で身の危険を顧みない吹原のために、
姉を守るために旅立つ吹原のために、自分は彼の残された家族を守ろう。
さちえが好きだという気持ちはもちろん、
そんな思いもあったのだろうと思う。
ボクサーを引退して、婿に入って酒造をやるなんて、
生半可な気持ちではできないだろう。

館長は言う。
必ず吹原が戻ってくるから、一緒に待とうと父に言われたのだと。
だから、夫を亡くしてひとりだった彼女は博物館を引き継ぐ。
父と母から聞かされていたから、
中林がひとりの、IDカードも持たない男を担いできたときもしやと思った。
オープニングで「あなた誰なんですか」と
和彦の名前に拘った伏線が、ここにある。

原作では、かえるのブローチはたまたま館長が拾うものだ。
しかしクロノスでは、和彦が自分の意志で館長に、姪に手渡す。
さちえに渡してくれと。自分がここへ来た証拠なのだと。

そして遂に、和彦は最愛の人を救うことに成功するのだ。
引き換えに、自分が四千年後の未来へ飛ばされるとしても。
思いを果たした和彦の笑顔が最後に観客の心に残るラストシーンだった。
頼人とさちえが、和彦のためにクロノス・ジョウンターを守っていたように。
ブローチを託された館長が、何も思わず、しないわけがない。
もしも6000年にも地球があって、人類が滅亡しないでいるのなら。
なんとか和彦を救おうと、代々言い伝えを引き継ぐかもしれない。
そんな未来なら、もしかしたら過去に戻るタイムマシンだって、
誰かが開発しているかもしれない。

頼人が和彦を忘れずに生きて、
死を免れた来美子は一体どう与えられた時間を
生きていっただろう。
「それがあの人の願いなのだから」と、頼人たちに言われて
誰かと幸せな人生を送ったのかもしれない。
もしかしたら、和彦を追って未来へ飛ぶために、
過去へ向かったかもしれない。

確かに吹原の思いは伝わった。
そう確信が持てた。
原作ではそこまでの確信を抱けなかった。
だから、嬉しかった。


素晴らしい舞台だった。
来年のハーフシアターで、原作の残り2話も上演するという。
絶対見に行かなくては。


そしてちょっと全然関係ないんだけど、
これくらい原作を凌ぐ納得のいく脚本演出で、ジブリがゲドを作ってくれるといいな。


051224164501.jpg因みに写真は、観劇を終えた後喫煙所から見えた景色です。
一番最初に載せたのが、夕焼け。
水分が空全体に広がって、街の低いところに集まっていて、
その太陽光が映って空が虹色に光っていました。
ちょっと携帯の写真なのでわかりにくいですが。
冬ならではですね。とっても綺麗でした。
 

拍手

PR
   HOME   
1205  1206  1207  1208  1209  1210  1211  1212  1213  1214  1215 
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
アーカイブ
  




忍者ブログ [PR]