演劇集団キャラメルボックスの舞台を先に見ていたので
内容は既に把握しており、オチも知っている。
しかしそれでも引き込まれ、一気に読んだ。
この長い話を、思ったより然程カットせず
2時間の舞台にまとめあげた脚本の成井さんは
相変わらず凄いと思う。
ほぼ忠実で、台詞や地文の味を損なっていなかった。
『博士の愛した数式』を読んだときも思ったが
学校でもっとこんな風に、数学は哲学に近いのだと
教えてくれる先生がいたなら、私は数学を好きになっていたかもしれない。
石神は、良い先生だと思う。
良い先生過ぎて、受験の為の授業が求められる
現代の進学校では宝の持ち腐れだ。
湯川ではないが、本当に残念だ。
舞台では、気持ちはわかるけれども
靖子が少し酷いというか、
私は石神にかなり肩入れして見てしまっていたのだが
小説を読むと靖子にも感情移入してしまった。
こんなに自分を愛してくれる人がたくさんいるのに
何故自分は幸せになれないのか、という彼女の思いは
読んでいて辛くなった。
石神の豹変か、と読者が感じるところが
実はオチのトリックよりも
地味でも非常に重要なトリックなのだ。
舞台について、製作総指揮の加藤さんが
「これは究極のハッピーエンド」と言っていたが
その言葉自体に救われた。
でも、小説を読んでみて、やっぱりこれはハッピーエンドではなく
どうにも救いのない悲しいばかりの話に思えた。
ただ、その衝撃だけではなく読者の心を揺るがし振るわせるのは
やはり根底にあるのは、『愛』なのだと思う。
原作にはなく、舞台オリジナルだったと
読んで判明したことなのだが
ラストの石神の慟哭は、舞台では演じる西川さんが
「そうじゃない。そうじゃないんだ」
と叫び、くずおれ、呻く。
とても印象的で、心を抉られる叫びだった。
その台詞が、成井さんが書いたのか
エチュードの過程で西川さんなりが付け足したのか
はわからないけれど
あの叫びを加筆出来るのもまた
原作に対する『愛』があるからなのだと思った。
靖子、石神、そして湯川
工藤など周りの人間も
どの立場になっても辛く、苦しい
愛があり、しかしだからこそ辛い物語だ。