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ふと思いついては消えていく戯れ言の中にも大事なことや本気なことはあるよな、と思い極力書き留めよう、という、日々いろんなことに対する思いを綴っています。
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2006.01.11 Wed
模倣犯〈下〉
模倣犯〈下〉
宮部 みゆき

読んでない時間も、他の本を読んでいる時間も、
ずっと心の片隅に引っかかって気持ち悪かった。

私は元々本が好きだし、読み出したら読み終わるまで
止められない性質だけど、それとは違う。
ただ、気持ち悪かった。
なんだろう、言うなれば、ずっとストーカーにつけられているような
気持ち悪い気になり方だった。
あ、これはけしてこの本や著者を否定しているわけじやないですよ?
つまりは、よく書けてるってことかもね。単純に言うと。
ピースが気持ち悪くて、被害にあった女の子たちが可哀想で
もうどうにも気持ち悪くて。
下巻のかなり後半の方で、やっと事態が動き出したかなと思って
ちょっとは普通の精神状態で読めるようになったけど。

まあ、登場人物たちに同調し過ぎて、事件が終わるまですっきりしないし、
終わったところで何も失ったものは戻ってこないんだ、っていう気持ちに
漬かり過ぎていた、ということなのかもしれない。


今この人はどこにいるんだろう?とか、何を持っているんだろうとか
細かいことがふと文章の書き方から気になって、
前の方に説明してあったかなと思ってそのシーンの冒頭から読み直しても、書いてないことが結構あった。
これはわざと?それとも主語述語目的語の欠落、
つまりはこれくらい想像で補えるだろう、という作者の意図?
かなりこういうところが多かったな。
それと、事実とは違うことを事実のように言っているところ。
例えば、有料道路を通っていないからオービスにも
監視カメラにも撮られていない、とか。
別に国道にもあるし、Nシステムだろうがなんだろうが色色あるわけで、
警察を舐めるな的にも思う。
この舞台となった場所では有料道路にしか
オービスが無かったのかもしれないし、
網川が、携帯電話は逆探知されないとか、
ボイスチェンジャーなら声紋も変えられるとか
今時子どもでも思ってないことを思っていたように、
オービスは有料道路にしか無いと勘違いしていたってことなのか?

なかなか気になりました。気にしすぎ?
この文章全体の欠落ぶりが、ピースの完璧と思っている割には欠落している
不完全な人間というのを表しているのだったらすごいけど。
サブリミナル効果みたいな。
ここからかなりネタバレです。


ロッキーを連れて塚田くんがピースに会いに行くのは
ちょっと良かったというか。
実際、私にも分かる感覚だし。
散歩しながら見上げてきたりするのは本当に可愛い。
網川に対して吠えたり 唸るなんてのはできすぎな気がするけどね。
犬なんてのは、飼い主に同調するより、飼い主の雰囲気を感じて
悲しくなってしまうんじゃないかなと思うけどな。
少なくともうちの犬を見ていると、私が怒っていたら一緒に怒るより、
しゆんとした顔をするか側に来て顔を舐めるかだけどね。

あと、滋子さんの携帯に昭二さんから電話がかかってきたときは、
不覚にも泣けてきた。
ただ、それで結婚生活がやり直せるかっていうのはまた別問題だと思うな。
シビアかもしれないけれど。
ライターを続けるかどうかとか話していたけど、クビになって
どう生活を続けていくつもりなのかとも思うし、
別に網川が捕まってしまえば
滋子さんは全てを書くこともできるわけで、
ドキュメント・ジャパンをクビになる理由が
あんまりわからない。
不義理をしたからと言ってああいう職業で致し方なく
そうなることは侭あることで、
それを引き摺っているよりも「うちで書いてよ」と人情だけでなく
商売けも込みで言ってくる編集者だっていると思うな。
第一、嘘の本を持ち出して嘘を言った。
それは網川を追い詰めるためだったのか?
当然視聴者の抱く疑問に対して、滋子さんは一種の説明責任があるとも思うしね。


しかし、結末としてはとんだ茶番だ。
映画の批評で、原作は良いのに的なコメントをたくさん読んだけれど、
私には原作がそれほど良いものとは思えない。
役者さんの演技にはとても興味があるけれど。
だって、生放送で問い詰められて、プライド傷つけられて
俺が真犯人だって言って
スタジオたてこもるなんて、とんだ馬鹿じゃん。
二面性とでも言いたい?そんな子どもの部分と冷酷な部分と?
そもそも子どもは残酷なんです?


かなりがっかりした。
もちろん、上巻の感想でも書いたように、
網川をヒーローだなんて思っていないから、
とっとと捕まって欲しかったけど、こんな捕まり方は茶番だ。
しかも、塚田くんに電話をかけてくるなんて。
くだらない。
『模倣犯』のストーリーがくだらないのか、網川がくだらないのか。
どうなんだろうね?
ここも計算ずくなら、すごい作者だと思う。

由美子が死んでしまったのはとても残念だった。
死ぬ必要が本当にあったのかな?
彼女の精神状態云々、と言ってしまえばそれまでだけど。
兄の遺書があるらしい、と警察に伝えてから死んでも遅くないと思うし。
女って、そんなに弱いかな?弱いだけかな?
必死で自分から海へ飛び込んでもがいていたくせに、
浮き輪が投げられたら引き揚げてくれるまで全部お任せ?
体から浮き輪が外れそうになったら悲しい顔で見上げたら、
レスキューの人が飛び降りてはめてくれる?
女ってそんなにどうしても馬鹿かな。
兄は無実だと信じた由美ちやんはどこへ行っちゃったんだろう。

兄の和明だってそうだ。
そんなに殺人を確信していて、いくらヒロミを信じていたとしても、
共犯者は信用できない奴だって分かっていたはずなんだったら、
そんな危険なところへのこのこ、なんの準備もせずに行くか?
由美子に呼び止められてその場で正直には言えないだろう、確かに。
ヒロミの立場が悪くなるから。自分がなんとかしてやりたいから。
だけどせめて、書置きを残しておくとかしないか?
それこそよくある筋書きじゃないだろうか。
『君がこれを読んでいるということは、僕はこの世にはもういないということだ。』
ってやつ。犯人が誰かわからないけれど、そう予想しているから行く、
自分の身に何かあったらこの手紙を警察へ、とか。
そんな下地も無しに殺人犯のところへ行くなんて、まあある意味凄い勇気だ。
そんなに網川らが言うように、和明が『馬鹿』だったという意味なんだろうか?

それを言うなら、網川に会いに行く真一や、別荘を探索する滋子もそうかもしれない。
誰にも相談しないものだろうか。
自分が感じた違和感や疑問について。
もう少し連絡を取り合ったりしないものかな。

作者に対して思うことは、水野久美が滋子に言っていることに近い。
女性である筆者の織り成す殺人劇は、女性にとってあまりにひどい。
読んでいて吐き気がするほどだ。
それを作者はどうやって書き進めていったんだろう。
まあミステリーで人が死なないというのは、
凡庸なミステリーの中ではありえないことで、
そういうミステリーを書いている人にとっては、
自分のキャラを作中で殺すことは日常茶飯事なのかもしれないけれど。
物語の要請上、どうしようもないこともあるし、
登場人物が勝手に動いているのを書き取るだけということもあるけれど。

同じ女なのに、どうしてもっと憤らないの?
結果網川が捕まっているけど、だから?それで救われる人はほとんどいない。
由美子の両親は子どもふたりを亡くしてこれからどうやって生きていくのか。
有馬義男はこの先どうしていくのか。
ヒロミの両親に至ってはほどんど書かれていない。
唯一展望が見えるのは、塚田真一と前畑滋子くらいなものだ。
あまり救いがない。
だから、ラストにも虚しさを覚えただけだった。
それとも、そもそも殺人事件とはそういうものだ、ということなのだろうか?
それが言いたいのだろうか。

読み終わっても吐き気がする。
被害者や遺族に同調し過ぎているんだろうか?私は
ある漫画家さんがこの本を読んでいて、
「『なぜ模倣犯なのか』ということに気付いてはっとなった」
って書いていたんだけど、
あんまり私ははっとしなかったって言うか、
なぜ模倣犯なのか、っていうのはいくつか思わせぶりなことが
書いてあったし、どれ、とはっきりわからないように
思えたというか…。
面白くない、とは言わないけれど、よく分からない小説だったな。
はっきりしない。何が言いたかったのか。
被害者の気持ち?加害者の気持ち?両方の家族の気持ち?
殺人を犯す人の気持ち?
元々、ハッピーエンドが好きで、
バッドエンディングでもどこかに救いがあれば
それで良いと思う自分には、どだい無理な小説だったのかもしれない。
さっきも書いたけれど、救いがあるかなと思うのは若干
塚田くんと滋子さんくらいとしか思えないから。
その救いも、安易に見えてしまうから。

いろんな意味で攻略の難しい小説でした。

宮部さんの本を読むのはこれが初めてなんで、なんともジャッジしがたいですけど。
もしかしたら自分にはこの人の文章は無理めなのかも。
宮部さんがどういう人か、というのも全然知らないし。

機会があったら、映画と見比べてみたいなと思ってます。
 

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