ふと思いついては消えていく戯れ言の中にも大事なことや本気なことはあるよな、と思い極力書き留めよう、という、日々いろんなことに対する思いを綴っています。
2005.07.27 Wed
震源
真保 裕一
まったく、この人は天才だ。
解説にもあるけれど、文句無しの逸材だ。
『だから、あれほど言ったんだ。』
の主人公江坂のひとことから始まり、読者は一気に江坂と共に、わけのわからないまま切迫した状況に引き込まれていく。一体なにがあれほど言ったのかわからないままに、でもなんだかやばそう、という状況を読み進めていくにつれ、切迫している理由は分かってくる。
が、なぜあれほど言ったのにと江坂が悔いているのかの種明かしはまだしてくれない。
こうしてぐいぐいと話の中に引き込まれていく。
次々に登場人物が出てきて、煙に巻かれたような気持ちで読み進めると、何時の間にかそれら全てが綺麗につながっているのだ。
少し超人的なパワーを登場人物が発揮することもある。
普通に考えて、一般人の江坂がこんなことができるだろうか?
しかし読んでいる間はそんなことは考えさせずに息もつかせず読ませてしま
う。
それは緻密な取材による綿密な描写があるからだ。
この人は一体、ホワイトアウトをはじめて読んだ時はダムで働いていたことがあったのかと思い、
ストロボを読んだ時はカメラマンの経験があったのかと思った。
そして今度は舞台は気象庁からスタートする。
突拍子もないどんでん返しも、江坂の感情や行動をひとつひとつ描くことで現実味を帯びる。流す汗、染み出る血液、硝煙の匂い、全てが現実のものとなって読者に体感させられるのだ。
本を読んだから、先生に話しを聞いたから、それでこんなにも緻密なものが書けるものなのか?
全く脱帽である。
ミステリーと言えば、人がなぜか景色の良いところで死に、
それをきゃ−と叫ぶ割には冷静に事件を解決していく主人公、
のようなものしか思い浮かばない自分には、ミステリーは苦手な分野だった。
それだけに、真保氏がミステリー作家の部類に分けられると知っ
た時は驚いた。
人が死なないミステリー。
(全く死なないわけではないが、人の死がメインでその自殺めいた死が
他殺であることを紐解くわけではない)
しかしここまで充分に読者を引き込み、謎に頭を悩ませ、ラストでは何度もあっと言わせてくれる。
素晴らしい文才だと思う。
彼でなければ、同じような設定を用いたストーリーでもここまで裏の裏のそのまた裏が設定されて書き連ねられることはないのではと思う。
最後まで気を抜けない読者にとっては興奮この上ないミステリーである。
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